ICF(国際生活機能分類)は「介護・医療・福祉」の分野で働く人には、必須と言ってもいいほど、重要なフレームワークです。
今回の記事は、「ICFの図は知っているけど、実際の現場では、どのようにして活かしたらいいの?」という疑問を持たれている方に、読んでいただきたい内容となっています。
この記事を通して、ICFの理解を深めていきましょう。
ICFについて
ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、日本語で「国際生活機能分類」と訳されます。
ICFは以下の図で示してるように、5つの構成要素があります。
生活機能と障害
① 心身機能・構造(生命レベル)
手足の動き、視覚・聴覚、内臓、精神などの機能面、および指の関節や胃・腸、皮膚などの構造面など、生命の維持に直接つながるもの
② 活動(生活レベル)
日常生活行為や家事行為、余暇活動など、文化的・社会生活を送るうえで必要なすべての活動のこと
③ 参加(人生レベル)
家庭、会社、地域社会への参加などにより、何かしらの社会的な役割を持つこと
背景因子
④ 環境因子
福祉用具や建築などの「物的環境」、家族や友人などの「人的環境」、制度やサービスなどの「社会的環境」の3つの因子に分けられる
⑤ 個人因子
年齢や性別、民族、生活歴、価値観、ライフスタイルなど個人を形作っているすべてのもの
ICFは「生きることの全体像」を捉えることに適したフレームワークとなっています。
高齢者は、加齢とともに足の筋力が低下して車椅子中心の生活になることや、認知機能が低下して洋服を自分で着替えることが困難となることもあるでしょう。
“できる”ことが少なくなるため、“できない”部分にどうしても、注目してしまうことが多くなります。
しかしながら、高齢者であっても、“できる”ことも多く残っています。
そこに着目しているのが「ICF」なのです。
さらに具体的にICFを知りたい、学びたいという方はこちらを参考にしてください。
https://trape.jp/blog/icf/
“できない”ことから、“できる”ことへ視点を変える
あなたは、このグラスの水の量をみて、どのように感じますか?
これだけ「しか」ないと感じる人もいれば、こんなに「も」あると感じる人もいるのではないでしょうか。
つまり、同じ事実(水の量)であっても、ネガティブに捉える人もいれば、ポジティブに捉える人もいるということです。
人の考え方や価値観によって、捉え方に違いが生じてしまいます。
では、介護現場に置き換えるとどうでしょうか。
例:車椅子を使って生活をしているAさん
「ネガティブ」な表現
「Aさんは、歩くことが難しくなって、車椅子でしか生活をすることができない」
「ポジティブ」な表現
「Aさんは、車椅子を使うことで、安全に移動して生活することができる」
どちらも「車椅子移動が可能」という事実に対する表現です。
ネガティブに捉えてしまうと、車椅子でしか移動ができないので、行きたい場所にいけないと後ろ向きな意見が出てきます。
ポジティブに捉えることで、車椅子で安全に移動できるなら、様々なことに挑戦することができると前向きな意見が出やすくなるのではないでしょうか。
このように捉え方によってケアが変わってきます。
“できない”ことから“できる”へと、ポジティブな視点に切り替えることは、ICFを活用するために、重要な考え方です。
ICFを活用する本当の目的
ICFは利用者さんの全体像を把握するために有効なツールです。
しかしながら、ICFを使って、「全体像の把握」をすること自体が目的ではありません。
最終的な目的は、利用者さんのより良い状態(well-being)です。
利用者さん自身が望む姿をともにイメージすることが重要になります。
すぐにICFを活用しようとするのではなく、利用者さんがどのような要望を持っているかを、丁寧に対話をすることが大切です。
この手順を踏むことで、利用者さんのリソース(資源)を最大限に活用することができます。
ICFを使うことが目的ではないということを頭に入れておく必要があります。
介護現場におけるICFの実践例
下のICF図は独自に作成したものになります。
○=促進因子/●=阻害因子
※ICFコードなど詳細は省く
健康状態は、「80歳の女性、特別養護老人ホームに入所中。5年前に脳梗塞を発症。左方麻痺の後遺症があり、運動麻痺が顕著。現在は車椅子中心の生活」としています。
上述しているように、まずは利用者さんの想いを引き出す対話が大切です。
利用者さんの想いが「何かしらのカタチで社会と関わりたい」だとします。
もしかすると、「施設(特養)だから、歩けないから、家族の協力が得られないから」などとネガティブに捉えてしまうかもしれません。
最初は、意識してポジティブに捉えるようにすることが必要です。
それでは、ICFを使って整理してみましょう。
繊維会社で30年勤務していたという個人因子に着目します。
また、記憶障害も軽度で日常的な会話は可能であることが想像されます。
方針を、「以前の職業を生かしながら社会と関わるきっかけをもつことができないだろうか?」と立ててみます。
繊維会社で働いていたのであれば、手先が器用で、仕事で培った経験や技術を活かせることができるかもしれません。
施設の近くや職員の知り合いに飲食店や他の業種と関わる人がいるのであれば、実際に仕事を請け負うことも良いアイデアです。
例えば、割り箸を袋にいれる作業や広告チラシを折ったり、その広告チラシをポスティングをすることも1つの選択肢となります。
仮にポスティングをするとなると、いつも以上に外出する時間が増えてしまいます。
この方は排泄機能低下があり、外出中に失禁をする可能性があります。
事前に経路の把握をして、トイレの場所を確認したり、オムツやパッドを事前に準備をしておく必要があるでしょう。
作業終了後は実際に作業を依頼してくれた人に会いにいくことが大事です。
誰のために仕事をしていたのかがわかると、日常生活のモチベーションも高まります。
利用者さんの社会と関わりたいという言葉の裏には、“役割を持ちたい”という想いが隠れているのではないでしょうか。
最もわかりやすいのは他者から「ありがとう」という言葉をかけてもらえることです。
そのきっかけをICFから作り出すことができます。
最後に
今回の事例は一例に過ぎません。
関わる専門職によって、違う介入の仕方やプランもあります。
何が正解かは利用者さんにしかわかりません。
丁寧に対話をすることで見出すことができるはずです。
利用者さんのより良い状態(well-being)を諦めず、追求するためにICFを使いこなしていきましょう。
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プロフィール
橋本康太(ケアワーカー/理学療法士)
所属 TRAPE インターン
某社会福祉法人/広島市立大学院情報科学研究科
介護現場のやりがい向上と経営の両立を目指し、実践と研究をしています。