ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、現在の介護において非常に重要な概念となっています。
これからの介護制度は自立支援の追求の流れがさらに加速していきます。報酬体型なども、自立支援の成果などを基準とする”アウトカム”ベースへと、どんどん移行していくでしょう。
そんな流れのなかで、介護の現場で自立支援視点の入ったサービスをしっかり展開し、信頼される専門職・スタッフ・事業所となるために、ICFについて正しく理解し、それを実践できるようになっておくことが非常に重要なのです。
これからの保健・医療・福祉サービスのあり方を支える概念となるICFをご紹介します。
ICFとは
ICFとは、日本では「国際生活機能分類」と訳されています。世界保健機関(WHO)が提唱したものです。
それまでWHOは、疾患や障害などがその方の生活や人生に及ぼす影響を「国際障害分類(ICIDH)」として整理してきました。1980年のことです。
そして、20年余りがたった2001年、ICIDHの改訂版としてICFが採択されました。名称とともに、新しい考え方のもとで内容も大きく変化しました。
ICFとICIDHの違い
【ICIDH】
正式名称:International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps
日本語名:国際障害分類
ICIDHでは
病気・疾患 → 機能障害(Impairment)→ 能力障害(Disability) → 社会的不利(Handicaps)
という障害構造モデルを基本としました。
たとえば、足をケガして動かない(機能障害)→ 1人で通勤ができない(能力障害) → 職場復帰が困難(社会的不利)というように、一方向的な影響を与えているという捉え方でした。
ICIDHは、障害を3つの階層レベルに分けて捉えるという点で画期的な功績がありました。
一方で、「本人の主観、内面への影響を無視して、外形的・客観的な障害しか扱っていない」、「障害というマイナスにのみに焦点をあてており、その方の個性や強みなどプラスの要素を評価することを忘れている」などの批判を受けてきました。
【ICF】
正式名称:International Classification of Functioning, Disability and Health
日本語名:国際生活機能分類
ICFでは、ICIDHへの批判を踏まえ、マイナスのみでなくプラスを含めた考え方・名称を採用しています。
機能障害ではなく「心身機能・身体構造」へ、能力障害ではなく「活動」へ、社会的不利ではなく「社会参加」へと、それぞれ使用する用語を”中立的”なものとしました。さらに重要な変更として、「環境因子」、「個人因子」がその方の健康状態に大きく影響を与えている、という新たな観点が加えられています。
これら5つの要素が、それぞれが互いに影響しあってその方の健康を形作っている、という捉え方にしたのです。そして分類全体の名称も、「生活機能・障害・健康の国際分類」となり、生活、健康など、人間生活を包括する用語が用いられるようになりました。
ICFは、もはや障害のみの分類ではなく、あらゆる人間を対象として、その生活と人生のすべて(プラスとマイナス)を把握、評価するモデルとなったのです。
ICFを構成する5つの要素
【生活機能と障害】
- 心身機能・構造(生命レベル)
手足の動き、視覚・聴覚、内臓、精神などの機能面、および指の関節や胃・腸、皮膚などの構造面など、生命の維持に直接つながるもの - 活動(生活レベル)
日常生活行為や家事行為、余暇活動など、文化的・社会生活を送るうえで必要なすべての活動のこと - 参加(人生レベル)
家庭、会社、地域社会への参加などにより、何かしらの社会的な役割を持つこと
【背景因子】
- 環境因子
福祉用具や建築などの「物的環境」、家族や友人などの「人的環境」、制度やサービスなどの「社会的環境」の3つの因子に分けられる - 個人因子
年齢や性別、民族、生活歴、価値観、ライフスタイルなど個人を形作っているすべてのもの
介護現場におけるICFの活用 -生きることの全体像を捉える-
ICFは、介護保険の軸である「自立支援」の目的である「ひとの生活の可能性を追求する」ための貴重な要素、ヒントを整理分類し、見える化できるフレームワークとなっています。
実際に、ケアプラン作成、介護事業所の実施計画・サービス提供などに、ICFを取り入れることが世界的に大きく推奨されています。
ICFのフレームワークは、個々の従事者が、利用者の状況を整理して把握・評価すること、つまりその方が生きることの全体像を捉えること(=どうすればその方のウェルビーイングは向上できるのか?)に大いに役立ちます。多職種の連携やチームケアの場面でも共通言語としてもその威力を発揮します。
TRAPEが実施するリーダー育成事業や研修においても、このICFをベースにしたものを多数取り入れています。
実際に、2018年に大阪府寝屋川市で実施され、弊社がお手伝いした「総合事業 短期集中通所サービスモデル事業」においても、要支援者が普通の生活者に戻れる可能性を実証することを目指し、ICFを最大限活用しました。
人を生活機能というプラス面からみるよう視点を転換し、さらに環境因子等の背景要因を加え、「できること」に着目し活かすICFの考え方は、自立支援を基本とする介護の考え方の土台と言えます。そのため、今後さらに介護現場でICFの概念が導入されていくことは間違いありません。
ぜひICFを理解し、活用することで、ウェルビーイングを増やしていきましょう!
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参照リンク: