価値観が多様化する現代の高齢社会において、高齢者をはじめ全ての人にとって、生きがいを感じ、充実した暮らしを営むために「社会的役割」を持つことができるのは重要です。
また、社会的役割はICFの活動・参加と密接に関わりを持ちます。
介護の現場で出会う人(利用者)は、身体機能や認知機能が低下してきた方々です。
身体機能や認知機能の低下とともに、今までできていたことが難しくなります。
利用者の方々は自信を失い塞ぎ込んでしまったり、関わっていた人たち(コミュニティ)からも孤立してしまうことも多く、社会的役割を失いやすい状態にあるのです。
これからの自立支援介護に向けて、介護スタッフが、ICFの活動・参加を理解しアセスメントできるようになることは必須と言えるのではないでしょうか。
そして、ICFの中で「活動・参加」をアセスメントすることが最も重要なのです。
活動・参加は他のICF要素の内容も含めて、対象となるヒトの全てを顕在化させている要素だと言えます。
活動・参加がネガティブなままだと、利用者がウェルビーイングとなることはありません。
逆説的に言うと、活動・参加以外の要素を改善したとしても、活動・参加が好転していなければ全く意味がないのです。
だからこそ、まずは活動・参加を徹底的に理解し整理することが必要となります。
しかし、介護スタッフからは、「活動と参加の違いがよくわからない」「アセスメント結果をどのように活用すればいいのかわからない」という声をよく耳にします。
今回の記事では、活動と参加の違いやアセスメント結果の活用方法についてお伝えさせてもらいます。
活動と参加を整理することができると、利用者を深く理解できるようになります。
利用者のより良い暮らしを提案できるだけではなく、介護スタッフが行うケアに選択肢が増え、仕事のやりがいにもつながるはずです。
活動と参加についておさらい
活動について
日常生活行為や家事行為、余暇活動など、文化的・社会生活を送るうえで必要なすべての活動
- 朝食を自分で作っている
- トイレ動作のズボンの上げ下げに1分程度時間がかかる
- 家の棚の上に置いてある衣装ケースをとることができるない
- シルバーカーで200m程度連続して歩行ができる
- 週末は1キロ先の美術館まで歩いて行っている
など、利用者が現在行っている活動を現したものになります。
参加について
家庭、会社、地域社会への参加などにより、何かしらの社会的な役割を持つこと
- 自治会活動に参加している
- 職場で勤務している
- 家族に料理を作っている
など、利用者1人で完結することができない、誰か(何か)と関わり合いながら行う活動になります。
活動と参加の違いと分類について
ここからが、本題です。
突然ですが、「料理を作る」という作業を活動と参加のどちらに分類したら良いでしょうか?
結論、どちらにも分類することができます。
「活動」は、利用者個人が生活を営む上で生じる活動です。
利用者が利用者のために、料理を作ることは「活動」となります。
しかし、利用者が家族のために料理を作っているのであれば、社会的役割となり「参加」に分類されることになります。
利用者や家族に質問や観察をすることで、「なぜその活動をするようになったのか」という背景や思いを知ることができます。
つまり、利用者が行う活動がどのような意味を持つかで、活動に分類するか、参加に分類するかが変わってくるということです。
個人因子・環境因子で「活動の意味」をアセスメントする
利用者の活動にどのような意味を持つか把握するために、ICFを活用して多角的(特に個人因子・環境因子)にアセスメントをする必要があります。
個人因子では、職業歴や価値観などを分類します。
個人因子は利用者のライフストーリーそのもので、社会的役割とも直接つながるのでとても重要です。
職業歴に料理人や学校給食の調理などがあれば、仕事として料理をしていた可能性が高いですよね。
料理を通して、社会的役割を担っていたのかもしれないと仮説を立てることができます。
環境因子では、道路のような物的環境、家族など周りの人、介護サービスや制度などが含まれます。
家族と同居していているのであれば料理を作っている可能性があります。
また、近所の人が近くに住んでいるのであれば、自分で作った料理をお裾分けしているかもしれませんね。
普段、どのような場所でどのような人と関わりを持っているかの仮説を立てることができると思います。
参加だけを単体で情報収集することは難しいので、さまざまな情報を組み合わせながらアセスメントすることが大切です。
このように個人因子や環境因子によって、利用者の料理をするという活動の意味に多様性や個別性が現れてきます。
しっかりとアセスメントすることが大切です。
活動・参加のアセスメントを介護現場で活かすために
アセスメントをして、ICFの活動と参加を適切に分類できることがゴールではありません。
日々のケアにより利用者の活動・参加が好転し、ウェルビーイングになってはじめて意味あるアセスメントとなります。
どのように活かしていくのかを、再び「料理を作る」という作業で考えていきましょう。
活動・参加の未来分析
まずは、利用者や家族と対話したり、利用者の基本情報が載っているフェイスシートから、利用者にとって料理がどのような意味を持つのかをアセスメントしていきます。
つまり、利用者にとって理想となる未来の活動・参加を分析するということです。
もし、「家族に自分の料理を提供したい」が理想の活動・参加だとします。
「料理を作り(活動)」、「家族に料理を提供する(参加)」のように活動と参加を分類することができますね。
活動・参加の現状分析
理想となる未来の活動・参加の分析がの次は、現状の活動・参加の分析を行います。
包丁を使うことが難しい、買い物にいくことができないなどネガティブなことだけではなく、立位保持が1時間程度可能、冷蔵庫の開閉ができるなどポジティブと思える要素も分析することが大切です。
活動・参加の過去分析
もし理想となる未来の活動・参加と現状の活動・参加にギャップが生じているなら、なぜできていないのかと活動・参加の過去分析を行っていきます。
ここで初めて、活動・参加以外のICFの他の要素を含めて分析します。
包丁を使うことが難しいなら、認知症による失行や麻痺による筋力低下や可動域制限(心身機能/身体構造)かもしれません。
買い物にいくことが難しいなら、家からスーパーまでの距離が長い(環境因子)や独居(環境因子)、心肺機能低下による持久力低下(心身機能/身体構造)という分析もできるかもしれません。
ここまで状況を整理することができれば、あとは一つ一つにアプローチしていくだけですね。
筋力低下や持久力低下のように機能訓練によって改善できるものもあれば、麻痺による可動域制限や認知症による失行などは、改善することが難しいこともあります。
利用者の身体機能を向上させることだけではなく、まな板を固定する福祉用具や訪問介護のような介護サービス、移動販売サービスなど環境によるアプローチも選択肢として持っておく必要があります。
最初から1人で全て分析するのはおすすめしません。
どうしても先入観が入ったり、多角的にアセスメントすることが難しいからです。
まずは、チーム内で「利用者さんの〇〇な活動ってどのような意味があるかな?」とコミュニケーションを取るところからはじめてみてくださいね。
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プロフィール
橋本康太(ケアワーカー/理学療法士)
所属 TRAPE インターン、某社会福祉法人
TRAPEにて介護事業所における組織開発や人材開発を学びながら、自身でも介護事業所の設立に向けて準備中。