ウェルビーイング。
これは1946年の世界保健機関(WHO)憲章の草案の中で出てきた言葉です。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます」(訳:日本WHO協会)
原文はこうです。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
平たくいえば、”自分にとって固有の、よりよい状態”、と言うことができると思います。
今、日本は、少子高齢化、テクノロジーの進化に伴う産業構造の変化などにより、社会の在り方が大きく変化しつつあります。それに伴い、さまざまな課題が個人の生活、地域コミュニティ、そして日本全体において生じ、 「課題先進国」 などと言われたりしています。そんな中、課題の代表格としてあげられるのが「社会保障」についてです。
地域コミュニティを構成している「ひと」の絶対数が減少し、そのうえ少子高齢化で若者の数が減っている現実において、今まで日本が行ってきた”young supporting old” (現役世代が高齢者を支える)という社会保障システムは限界を迎えています。需要と供給のバランスが取れず、システムを存続できなくなりつつあります。
では、我が国にもう可能性はないのでしょうか。
システムの限界が、私達の未来を決めてしまうのでしょうか。
TRAPEは 「課題を可能性に変える」 ことは可能だと信じています。
そのためには、既存のシステムをどうアジャスト(微調整・変更)するか、というような視界から抜け出す必要があります。
目指したいのは、「ウェルビーイングがあふれる社会」なのであって、システムはそのための手段でしかないからです。
では、ウェルビーイングはどうすれば増やせるか。TRAPEはこう考えます。
まず、制度よりもビジョン
社会の最小単位である1人の「ひと」にとっての”よりよい日常”の実現を目標とします。
これが目指したい状態、つまりビジョンです。
制度の求める内容が、目の前の患者・利用者・顧客のために本当に価値があるのか?ビジョンのために意味があるのか?と常に問いをもたなければいけません。
1. 本質を捉える
表層的な打ち手ではなく、その方の”よりよい日常”のための具体的な要素を真摯に見定めます。
「介護予防には体操教室」「離職防止のためには賃上げ・処遇改善」のような短絡的発想ではなく、対話によって、その方の情動や人間性、取り巻く環境の把握に務め、本当に必要な要素は何なのか、と掘り下げることが大切です。
2. 変化を恐れず自ら考え、行動する
ビジョン実現に必要なことを見定めたら、今までのやり方に拘らず、新たな行動を自らはじめましょう。
いまの制度やシステムは、現実の世界で起きている変化に対応するため「後追い」で変更されていきます。
制度改定を待っては遅いです。しかも全国一律に適用されるようなシステムは、個々に環境の異なる地域では機能しない時代になっています。
そもそも、誰のための、なんのための「社会保障」なのか。それもしっかりと理解しておく必要があります。
社会保障制度審議会は1950年の「社会保障制度に関する勧告」で、社会保障制度を次のように規定しています。
「社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。」
ポイントは、個人の責任や努力だけでは対応しきれないリスクや困窮原因に対して、①生活の安定・向上、②所得の再分配、③経済安定などの機能により、公的なサポートや保険の仕組みを提供することで「国民に健やかで安心できる生活を保障すること」を目的としたシステムだということです。
国が設計して運用してきたこのシステムが、維持できなくなりつつある、ということは、何を意味するのか。
それはつまり、国や制度の手厚いサポートを期待するのではなく、自分たちで主体的に生活を守り、よりより日常を追求する時代が来た、ということです。
この事実に気づき、1人のひとの日常における「ウェルビーイング」(=より良く生きる)が本質である、というビジョンを前提に、これからのサービスや行動を再設計していくマインドが、「課題を可能性に変える」ために必要なのです。
次に、”地域コミュニティ”の本質
ひとが2人以上集まると最小限のコミュニティが生まれます。
つまりひとの集合体として形成されている地域コミュニティは、それぞれのひとの(良いものも悪いもの含めた)”状態”の有機的な結合体なのです。
だからこそ、地域コミュニティを可能性に溢れたものにするためには、まずはシンプルに、その構成要素である一人一人の日常におけるウェルビーイングを追求することが重要なのです。
ひとには個性や違いがありますが、実は大部分の本質的要素は共通していることが知られています。それは表面的な職業や、理論的な考え方などではなく、もう一段内側の”情動”の部分と言うこともできます。
つまり、何が言いたいかというと、ある1人のウェルビーイングの「要素」は他者も求めているものである可能性が高く、それが達成できた場合、ひと同士の相互作用で成り立っている地域コミュニティにおいては、ポジティブな相乗効果が発生しやすいのです。
行政、医療、介護、学校、保育など、多業種や多職種の協働が上手くいっている地域や活動をみると、かならずこの「ビジョン共有」や「情動面でのカルチャーフィット」をみてとれます。そしてそのビジョンを語り伝えるリーダーもいます。
外から乗り込んでオシャレな要素をパッケージで盛り込むような「まちづくり」ではなく、その街で暮らす一人一人の日常をどう良くできるか、そこにどういう資源があり、何が必要なのか、という地に足のついた「日常づくり」の要素が、ウェルビーイングへの本質なのです。
課題にはどのように向き合うべきか
制度の現状をみてみましょう。
- 日本は超高齢社会の課題を乗り越えるために「地域包括ケアシステム」という仕組みを提唱しています。
- 2000年に制度ができた当初より「自立支援」は介護保険の軸とされてきました。
- その軸を地域包括ケアの名のもとで、地域の実情にあった形で運用していくことを想定して「地域支援事業」が作られました。
- さらにその地域支援事業のなかで、高齢者の可能性を見出す「介護予防」と日常生活をサポートする「生活援助」を合体させた「総合事業」が現在スタートしています。
が、いずれの仕組みも、有効に機能しているエリアは非常に限られています。
弊社のところには、現状をなんとかしたい、このままでの地域の未来がない、と考える全国の自治体から、数多くの講演依頼、助言依頼、アドバイザー就任依頼を頂きます。
共通するのは、どこも「要介護者が増え続け、介護の担い手がますます足りない状況に危機感を持っている。が、今までと異なり自治体に大幅な裁量を与えられており、具体的にどうすれば状況を打破できるのか分からない」
というお悩みです。
ここでビジョンが問われます。
他の市町村の良い事例をどうやれば複製できるか、とか、議会で説明できるだろうか、という意識では、誰も幸せにすることはできません。
どうしても事業やサービスをいかに実施するか、ということに主眼が置かれがちです。
1人のひとが自分らしい日常を送っている状態(=ウェルビーイング)が主題であり、すべての事業やサービス、仕組みはそれを達成するためのツールにすぎない、という根底のビジョンの共有がされていないところに課題の本質があります。
このビジョンは、あまりに当たり前に思えて、あえて強調することに違和感を覚える方もいらっしゃいます。
でも、本質的なことは、いつもシンプルだとTRAPEは考えています。
地域コミュニティ、その集合体である日本を可能性に溢れた国にするために、私たちが今最初に行うべきことはシンプルに、”1人の「ひと」の日常におけるウェルビーイングとは何か”、を知るために対話をし、あなたが向き合う一人ひとりの気持ちや行動のすべてに関心を寄せることではないでしょうか。
今日からでも、今からでも、始めることができますね。そしてそれを続けましょう。